嗜好性薬物の世界

カチノン系化合物とは何か

アクセス数(このページ) 26343

最近、「カチノン包括規制」などという単語が飛び交っている。薬事法の指定薬物に、ある種のカチノン類をまとめて指定するという規制のことである。しかし、掲示板などにおいては、そもそもカチノンとはどういったものなのかがよくわからないという声を耳にする。本家2ちゃんねるやしたらばなど、画像を貼れない掲示板では、なかなかわかりやすい説明ができない。

「カチノン系化合物」とは、下記の「カチノン」という化学物質の基本骨格を持った化合物のことである。アンフェタミン骨格のβ位に酸素原子(ローマ字のO)が二重結合している、「ケト基」を持つのが特徴である。

PEA-bka1

一方、下記のアンフェタミンやMDMAは、β位に水素原子しか結合していないため、カチノン類には分類されず、「フェネチルアミン類」とか「アンフェタミン類」などと分類される。

PEA-a1 34MD-PEA-a1N1

特性

アンフェタミンは強力な覚醒剤であるが、アンフェタミン骨格にケト基が付くと、脂溶性が低くなるため、血液脳関門を通過しにくくなり、中枢神経作用(脳内での働き)は落ちる。たとえばカチノンの効力はアンフェタミンの3分の1である。

ただしカチンやエフェドリンのように、同一部位に水酸基が結びついた場合に比べると、それほど大幅に低下するわけではない。たとえばカチノンのケト基が水酸基に置き換わったカチンは、カチノンの10分の1の効力である。またエフェドリンは、葛根湯などの麻黄が配合された漢方薬にも含まれており、若干の覚醒作用は持つものの、通常は乱用の対象となることはない物質である。

PEA-bha1 PEA-bha1N1

なお、後述するα-PVPのように、窒素原子上に環状の炭化水素鎖(ピロリジン基)を持つと、脂溶性が高まって脳関門通過性が高くなるとも言われている。

カチノン類は、β位に水素原子しか結合していないアンフェタミン類と比べると、化学反応が容易であり、安価に供給できる。アンフェタミンなどと比べると覚醒効果は低いが、それ以上に安価なので、費用対効果は大きい。アップ屋などの国内脱法ドラッグ業者で、カチノン系の物質が多く出回った理由である。

カチノンは、摂取後比較的速やかに代謝(分解)され、ケト基が水酸基に変わったカチンに変換される。カチノンは覚醒作用も交感神経作動作用(血圧、心拍数の上昇、吐き気、瞳孔の拡大、眼圧の上昇などを伴う作用)も高いが、カチンは脳関門通過性が低いため、交感神経作動作用は高いものの覚醒作用は低い。そしてカチンはカチノンよりも長時間、体内に残る。このため覚醒感が切れるたびにカチノンを追加摂取した場合、血中のカチノン濃度はあまり高くなることはないが、代謝産物であるカチンの濃度はどんどん上昇していくことになる。ただし、α-PVPやペンテドロンのようなカチノンのアナログ(類縁体)についてもこの理論が当てはまるかどうかは筆者には確証がない。たとえば後述するブプロピオンは非常に半減期が長く、同じカチノンだからと言ってすべての物質がすぐに薬効が切れるというわけではない。

また、カチノン類はドーパミン作用もノルアドレナリン作用も同じレベルになる場合が多いが、ケト基が水酸基に代謝されると、ノルアドレナリン作用は強いものの、ドーパミン作用がかなり落ちる場合が多いと思われる。このため、摂取後、時間とともに薬効の質が変わってくることになる。

アップ屋で販売されていたペンテドロンは、粉末を直接口内に入れると、直後に舌や口内粘膜に麻痺したような感覚が生じ、時間差で数日以内に舌が激しくただれるという難点があった。また、経口摂取のみならず、直腸に注入した場合でも、量が多ければ血管を通じて口腔内に移行するのか、やはり数日以内に舌の糜爛が生じたものである。一方、α-PBPなどのピロリジン基を持つカチノン類の場合は経口摂取してもこのような現象は生じなかった。機序は不明だが、窒素原子に水素原子が1個結合している(第2級アミン)か、まったく結合していない(第3級アミン)かによってこの性質が決まるのではないかと考えている。(その後追記:もしかすると、私の摂取したものに含まれていた不純物が原因だった可能性もある)

由来

カチノンは、カートと呼ばれるアラビア原産の植物に含まれる精神活性物質である。カートは、チャットやアラビアチャノキとも呼ばれる。主に現地では、葉を長時間噛み続けることで消費される。

カート常用者は口腔内に癌が発生する確率が高い。これは、葉を長時間噛み続ける機械的刺激によるものか、それともカートに含まれる発癌性物質によるものかは分かっていない。

麻黄は裸子植物、カートは被子植物と、進化の系統上大きくかけ離れた植物であるが、どちらにもノルプソイドエフェドリン(カチン)という物質が共通して含まれる。

各物質

これまでに出回った代表的なカチノン系化合物は下記の通り。いくつかが日本法で麻薬に指定されているが、いずれも薬学的には麻薬(痛み止め)の性質はなく、覚醒剤と分類すべきものである。

下記は、ベンゼン環にメチレンジオキシ基がなく、構造的にはメタンフェタミン()に類似しているもの。いずれもドーパミン賦活作用(覚醒作用)が主体であり、覚醒剤に分類される。

PEA-bka1N1 PEA-bka3N1 PEA-bka3NN4 PEA-bka2NN4

下記は、ベンゼン環にメチレンジオキシ基が付いており、構造的にはMDMAに類似しているもの。以下の多くは、ドーパミンにも、セロトニンにも賦活作用を有し、エンタクトゲン(他者との共感や、多幸感を生じさせる物質)かつ覚醒剤に分類される。ただし、例外的にMDPVはセロトニンには作用しないとされるため、純粋な覚醒剤であると考えられる。

34MD-PEA-bka1N1 34MD-PEA-bka1N2 34MD-PEA-bka2N1 34MD-PEA-bka3N1

34MD-PEA-bka3NN4

これ以外にも、ベンゼン環にメチル基が付いたメフェドロンなどの物質が存在した。

メトカチノンはメタンフェタミンと類似した構造を持っており、ロシアで流行したことがある。別名をエフェドロン(ephedrone)というが、これはエフェドリン(ephedrine)のケトン(ketone)体という意味である。日本での乱用はあまり耳にしないが、第一製薬の子会社だった第一ファインケミカルが、麻薬指定物質だと気付かずに2トンを製造、2.8トンを輸入して風邪薬の原料としたという珍事(ニュース)があった。(なお第一製薬はその後三共と合併し、第一三共となった。また現在、第一ファインケミカルは協和発酵グループ傘下になっている)

メチロンはMDMA(麻薬指定)のβ位にケト基が付いただけの構造であり、エンタクトゲンとしての性質もMDMAと近く、人気もあったが2007年に麻薬指定になった。ただしノルアドレナリン、ドーパミンに対する作用はMDMAと同様だが、セロトニンに対する作用は3分の1である(ケト基が付くことで、単純に脳関門通過性が低下するだけではなく、受容体の選択性にも変化が生じているのであろう)。なお、第一三共の解熱剤「メチロン」はスルピリン水和物であり、この麻薬指定のメチロンとは別物である。またエチロン(別名bk-MDEA)もメチロンに似た物質であるが、2014年に麻薬指定になった。

また、MDPVはドイツの製薬会社ベーリンガー・インゲルハイム(現在、日本のエスエス製薬の親会社である)によって1969年以前に開発された物質であるが、ストリートドラッグ(路上で売られるような乱用性の高い薬物)として人気が出た。諸外国では「アイボリー・ウェーブ」とも呼ばれ、日本では「メリーちゃん」の愛称で、広島県などを中心に暴力団の間に出回ったことがあり、2007年には露店で販売されてもいた。しかし、2008年に早期に薬事法の指定薬物に指定されたため、ショップ販売の脱法ドラッグ業者の間にはそれほど広がらなかった。その後、2012年に麻薬指定された。

その後、2010年ごろから本格化した脱法ドラッグ業界においては、特にα-PVPは人気が高く、第6世代の代表的なアッパー系化合物(覚醒剤)であった。しかし、2013年に麻薬指定された(薬事法の指定薬物になってすぐの時期であった)。

また、ブプロピオンという海外の医薬品も、カチノン骨格を持っている。この物質は生体内半減期が14時間から21時間と長い。

3Cl-PEA-bka1Nt4

包括規制の内容

カチノン包括規制とは下記の指定薬物一覧の終わりの方にある項目に書かれているもののことである。ただし、α-PHPP(通称PV8)のように、カチノン包括規制の対象ではないが、個別に指定薬物となっているカチノン類も存在する。

  • 指定薬物一覧(PDFファイル)
    • どうやらこのPDFファイルは、指定薬物が追加されるたび、URLは同じままで内容が新たなものに差し替えられるようだ。省令番号も、新規物質が追加されるたび、既存の物質の番号が変わってしまようだ。

なお、この資料の表記は誤解を招く書き方となっており、たとえばベンゼン環に複数の置換基(フッ素など)が結びついた場合も規制対象となるとも取れる書き方になっているが、実際には、そういった複数の置換基が結びついている物質は、規制対象外である。詳しくは、下記の図解を参照してほしい。

詳細な図解

構造図から、その物質が規制対象かどうか読み取るには、下記の図をご覧ください。中2,3-女子様の作図された画像を掲載させていただいています。

2015年5月より、第二次カチノン包括指定が施行されています。旧制度についてはこちらの図をご覧ください。

カチノン包括指定2

注意しなければならないのは、ベンゼン環に結び付くXは、「1か所だけに結び付いた場合」は規制対象であるものの、「2か所以上に結び付いた場合」は規制対象外であるということと、一方で、窒素原子に結び付くアルキル基は、一つだけ結びついた場合でも、二つ結びついた場合でも規制対象であるという点です。そのため、下の図のような化合物は、この記事の執筆時点では規制対象外です。

35F-PEA-bka1

なお、こういった構造式においては、一本線で表される一重結合は、それを軸として自由に回転できます。そのため下記の二つの物質は、一見すると異なった形をしていますが、実は同じ物を表しています(楔形の線のある、キラル化合物の場合は異なってきますが、ここでは割愛します)。情報源によって、構造式の書き方が異なる場合があるため、一見すると別な構造式に見えても、よく見たら同じである場合もありますので、構造式を見るときは、パッと見た感じだけで判断するのではなく、ベンゼン環からどんな原子団がいくつの炭素数(線の屈折)を経て繋がっているのかを、しっかり確認しましょう。

同一

また、上記の包括指定に当てはまっていても、麻薬指定の物と向精神薬指定の物は、薬機法の指定薬物からは除外されています。たとえばピロバレロンアンフェプラモンは向精神薬指定であるため(現在、日本で医薬品としての流通はない)、所持・摂取に罰則がないなど、指定薬物よりも規制が緩いです。一方、麻薬指定の物は薬機法の指定薬物より罰則が重いです。

アクセス数(全ページ合計) 572253

しばらく前から、荒らしの大量データ送信攻撃のために、トップページと「みんなで作る用語集」のページが、本サイト管理人でも編集・削除ができない状態になっております。また、皆さんのコメントも入力不能になっています。Toratorawikiサーバー管理者のサイトで対処要望を送っておりますが、1年間ほど待っても返答がないので、近いうちにサイトを移転する可能性があります。(この二つのページ以外はサイト管理者が編集可能なので、時々更新していきます)

このサイトでは、覚醒剤、麻薬、大麻、幻覚剤、エンタクトゲン(友愛剤)、興奮剤、合法(脱法)ハーブ、アロマなどの嗜好性の向精神薬の情報を掲載しています。このサイトについて

このサイトの情報には、最新の法規制が反映されていない箇所もありますので、ご注意ください。

メニュー

このサイトは著作権フリーです。みんなで作る用語集は誰でも編集可能なwikiになっています。(現在、荒らしの攻撃のせいで稼働できない状態です)

更新履歴

新着漫画

manga010

大きいサイズの画像と他の作品はこちら