嗜好性薬物の世界

合法・脱法ドラッグの今後の価格

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少し前まで、脱法ドラッグには「違法ドラッグよりも安い」というイメージがありました。実際、日本で脱法ドラッグが大流行した2011年~2013年ごろには、500mgの粉末が5千円程度で販売されており、違法薬物であるメタンフェタミンの末端価格が1gあたり数万円~10万円であるのと比較すると確かに安価でした。この理由としては、脱法ドラッグは純粋なまま販売されるわけではなく、薬効のない増量剤によって薄められていた場合が多かったというのもありますが、原料化合物が安価に調達できたことが最大の要因です。この時期の国内の脱法ドラッグ業者は、カチノン系の覚醒剤化合物を中国などから1kgあたり10万円以下で輸入していたようです。これは、たとえ増量剤で水増しをせずに販売したとしても、500mg入りの商品を原価50円で製造できるという事を意味します。このように、原価と販売価格に大幅な差があることから、この時期に製造販売を手掛けていた業者は、莫大な利益を手にすることができたと推測されます。医薬品の世界では、昔から「薬九層倍(くすりくそうばい)」という言葉があり、薬は原価の9倍の値段で売られる利潤の大きな商品だとされていますが、脱法ドラッグは実に原価の100倍以上の価格で売られていたのです。

しかし、そういった「古き良き時代」はすでに完全な終焉を迎えています。現在では、2度にわたるカチノン包括規制により、数多くの有望なカチノン類が規制対象となり、それに伴ってドラッグ業者もその多くが撤退しています。また、未規制の化学物質を海外から輸入しようとしても、その宛先が脱法ドラッグ業者宛てになっていたり、あるいはすでに海外で脱法ドラッグとして出回っている実績がある物だったりした場合、日本政府の指示により、未規制なのにもかかわらず税関で意識的に通関事務手続きを遅らせて国内への輸入を食い止めようとするという、超法規的(「脱法的」とも表現可能)な対応がとられています。つまり、有効な作用のあるドラッグを輸入するためには、「未規制で、かつ活性の強い化合物を見つけ出す」というハードルと、「輸入時に水際で阻止されないように対策をする」というハードルを乗り越えなければいけなくなっているのです。

そして、この二つのハードルを乗り越えたとしても、次に待ち受けているのは化合物の製造コストの問題です。前述のように、少し前までは原料化合物は1kgあたり10万円以下での調達が可能でしたが、こういった安値での供給が可能だった背景として、「日本に輸出される化合物は、同様に世界各国に輸出されている化合物でもあった」という事情がありました。つまり、日本の脱法ドラッグ市場と諸外国の脱法ドラッグ市場で流通していた物質が同一であったため、安価な量産品を手に入れることができたのです。しかし、現在では日本のドラッグ規制が著しく強化され、多少なりとも知名度のある向精神薬はのきなみ規制済みとなり、現在では1か月に1回というハイペースで薬機法の指定薬物が追加される状況となっています。一方、世界的には未だにα-PVPやペンテドロンなどが合法である国もあり、そういった規制の緩い国の脱法ドラッグ市場と、規制の厳しい日本の脱法ドラッグ市場では、もはや同一の化合物を共通して販売できるような状況ではなくなっています。このため、日本向けに輸出可能な物質は、あまり世界的に名が知られていない物質か、あるいは全くの新規物質(特注品)に限られることになりますが、新規物質の場合、すでに大量生産されている化合物と比べ、初期段階の製造コストはかなり高くなってしまいます。

では、もし今後有望な未規制化合物が見つかり、日本市場で高い評価を得て、日本向けに大量生産されることになった場合には、その価格は今までとあまり大差ないレベルで済むのでしょうか? 少なくとも私は、この点についてはかなり悲観的です。今までの規制の流れを追ってみると、まずはα-PVPのようにハロゲンの付かない物質が流行し、それが規制されると4F-α-PVPのようにハロゲンが付いた物が登場するといったパターンが中心でした。この理由としては、ハロゲンの付く原料の方が割高であるため、ドラッグ業者としてはまずは安価な非ハロゲン化合物から製造販売する方が得だったという事が挙げられます。なお、ハロゲンが付くことによって、薬効は強くなる場合もありますが、弱くなる場合もあります。そして、現在ではカチノン包括指定とアンフェタミン類に対する個別指定により、ベンゼン環にハロゲンが1個だけ付いた(かつ、他の置換基が付いていない)主要な物質は全て規制済みとなっています。ハロゲンが2個以上付いた物はほぼ未規制ですが、ハロゲンの数が多くなると、その原料の価格も高くなります。

ハロゲンの数と価格の関係について、ベンズアルデヒドという原料化合物を例にして解説します。東京化成工業の製品同士で価格を比較した場合、ハロゲンの付いていないベンズアルデヒドの価格は500gで3500円、4-フルオロベンズアルデヒドの価格は250mLで24700円、3,4-ジフルオロベンズアルデヒドの価格は25gで13000円です。容量に差があって分かりにくいので、比重を元にmLをgに換算した上で、全て1gあたりの価格に直してみると、下記のようになります。

  • ベンズアルデヒド:7円
  • 4-フルオロベンズアルデヒド:84円
  • 3,4-ジフルオロベンズアルデヒド:520円

(本記事執筆時点では3,4-ジフルオロベンズアルデヒドの価格は25gで18500円でしたが、2016年8月に再確認したところ値下がりしていたので反映しました)

なお、ベンズアルデヒドはアンフェタミンやα-PVPなどの原料となりますが、4-フルオロベンズアルデヒドは4-フルオロアンフェタミンや4F-α-PVPなどの原料となり、3,4-ジフルオロベンズアルデヒドは3,4-ジフルオロアンフェタミンや3,4-dF-α-PVPなどの原料となります。このように、包括規制を逃れようとしてハロゲンなどの置換基が複数付いた製品を製造しようとすると、原料価格が大幅に割高になってしまうという問題が存在するのです。もちろん、アンフェタミン類やカチノン類以外の構造であれば、まだまだ安価な原料から製造できる未規制化合物は残っていると思います。今後、脱法ドラッグ市場で大きな利益を手にする事業者が出現するとしたら、それは多分、こういった「安価な原料から製造が可能で、かつ高い薬効を持っている化合物」を発見できた事業者になるでしょう。しかし、そういった理想的なドラッグを発見することはおそらく容易ではないと思いますし、もし発見できたとしても、うかつに多方面に販売すれば、政府の買い上げ調査によって発見され、たちまち規制リストに加えられてしまうでしょう。

本来、脱法ドラッグは違法ドラッグと比べて、「使用が発覚しても法的な処罰を受けない」という、ユーザーにとって大変歓迎されるメリットがある商品です。であれば、例え違法ドラッグよりも高価であったとしても、本来何もおかしくないのではないか?と私は考えています。2010年代前半のような、脱法ドラッグが安価に供給された時代こそ、むしろ特異な時代だったと考えてみてもいいのではないでしょうか。

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